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有川浩の本 [本]

やや、面白い!

 「阪急電車」を最初に読んだ。
はじめに気が付いたのは、作者が女性だったこと。アリカワヒロシではなくてアリカワヒロと読むらしかった。
文章の細かい描写がどことなく女性的だった。
とくに白いドレスの女が出てくるあたりは、自分の彼氏を奪われた嫉妬と怒りにあふれた女性の心理描写がリアルだった。
全体にほんわかとした小説で、内容は毒にも薬にもならないが、構成力が優れていると思った。
「阪急電車」の今津線の各駅で起こる小さな出来事が、オムニバス的に描かれている。
宝塚駅から西宮北口駅までわずか8駅の電車の中やホームで、あるいは駅周辺が舞台となっている。そして、今度は折り返し。西宮北口駅から宝塚駅までの間に物語をちりばめる。
おそらくこの沿線を利用する読者にとっては、たまらなく魅力にあふれた小説だろう。
こんど電車に乗ってみると、違う世界が待っているのかもしれない。

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話は脱線するが、私は「読書日記」なるものを書いている。
若いときには日記を書いていたが、なかなか続かなかった。
今、読書日記を書くのは、本の中味を忘れないためである。
たいしたことは書かない。思い出すための手立てとなるように、登場人物であったり、キーワードであったり、感想めいたことはあまり書かない。
一つだけこだわりがある。数年前に買った万年筆を使うこと。
緑色のセルロイドに金色の装飾がある。ちょっと太めのペン先で、書きやすい。
読み始めた時、読み終わったときには、必ず書くようにしているが、その万年筆で書いているときが至福の時間に思われてならない。

次に有川ヒロの「図書館戦争」を読んだ。
若者のアニメを思わせる装幀、のみならず設定も、登場人物たちの会話も、時代の先端を思わせるようなブットビ具合だ。
しかし、その舞台設定、あるいはカラクリを見破るとあとはその世界が丸出しに見えてくる。
青春小説及び恋愛小説のたぐいである。しかし、図書館防衛隊と公序良俗を守るための良化特務機関との抗争は、現代の文化的な問題にうがった見方を差し出してくれている。
なかなか止められない、とまらない味だ。
今は、二巻目の「図書館内乱」に突入している。


阪急電車 (幻冬舎文庫)

阪急電車 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2010/08/05
  • メディア: 文庫



図書館戦争  図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)

図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/04/23
  • メディア: 文庫



県庁おもてなし課

県庁おもてなし課

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/03/29
  • メディア: 単行本



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「天才たちの値段」 [本]

今年はじめて読んだ本

 お昼ごろ、パソコンに向かっていると、携帯が鳴った。
「えっ、今日やった?」
友だちとの昼ごはんの約束をすっかり忘れていたのである。
さいわい、約束の場所は自転車で15分くらいで行けたので、化粧もしないまますっとんで行った。

かくのごとく、正月明けはかたつむりのごとく、のろのろと過ごしているわたしである。

その私が今年初めて読んだ本が「天才たちの値段」だ。
作者門井慶喜は、今回二冊目。以前に「天才までの距離」を読んで面白かったのを覚えている。
「天才たちの値段」は、それよりも以前に書かれたものだったが、期待にたがわず面白かった。
ジャンルは美術ミステリーとでもいうのだろうか、副題に<美術探偵・神永美有>とある。

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後の解説では、私(佐々木昭友・・某短大講師)がワトソン役で、神永美有(美術コンサルタント)がシャーロック役のようなことを書いていた。神永美有は、ここではもっと神秘的で白魚のような青年でモノセクシャルな存在である。五つの短編小説から成り立っているので、軽くおしゃれな小説だ。
ミステリーといえど、だれも死なないので後味が良い。

目次を紹介すると、
天才たちの値段・・・(ボッティチェッリの作品だとする絵について)
紙の上の島・・・(モラエスから譲り受けた地図について)
早朝ねはん・・・(ある寺から出てきた涅槃図について)
論点はフェルメール・・・(天秤を持つ女のもう一枚の絵をめぐって)
遺言の色・・・(佐々木の祖母の財産相続をめぐって)

私が一番面白かったのは、「遺言の色」かなあ。赤、緑、青の三つの箱の中に正解があり、選んだものに遺産相続の資格を与えるというものだが、7つの謎が書かれていて、その謎解きをするのが面白い。
佐々木という人物の生い立ちや神永との友情なども書かれていて、主人公への親近感が増したようだった。佐々木が、東京の某短大から京都のZ大の講師の話を受け、悩みつつも京都へ行く決心をするが、作家自身も生まれ故郷の群馬県からある時期に京都に移るのも分身をみるようで面白い。

さて、今年はこのあと有川浩の本を読んでみようかな。


若桜鉄道うぐいす駅

若桜鉄道うぐいす駅

  • 作者: 門井慶喜
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2012/09/13
  • メディア: 単行本



天才までの距離 (文春文庫)

天才までの距離 (文春文庫)

  • 作者: 門井 慶喜
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/08/03
  • メディア: 文庫



図書館戦争  図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)

図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/04/23
  • メディア: 文庫



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本でも読むか~ [本]

「秋月記」と「宵山万華鏡」

 京都で風邪をもらってきて、沈殿していました。
今日は、昼ごろから病院へ行ってきましたが、病院でもあっちでコンコン、こっちでゼェゼェやってました。
師走なのに、ちっともその気(大掃除の)になれません。

塩飴でも舐めながら、少し前に読んだ本のことを書いてみます。

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「秋月記」(葉室麟著)・・・角川文庫
 「実朝の首」「蜩の記」「乾山晩秋」につづき、四冊目。
 いきなり、隠居した余楽斎(在りし日の小四郎)が、藩の陰謀を企てたという罪で捉えられる場面から始まる。秋月藩と福岡藩は、支藩と本藩の関係にあり、本藩が歴代にわたり優位に立ち、支配しようとしている。小四郎たちは若い頃、理想に燃えて藩の旧勢力を追い出した経歴がある。藩の要職を担う頃になって、自分たちが追い出した人物(宮崎織部)が、じつは秋月藩の自主性を願って、捨石になったことが理解できた。
いま今度は自分が捨石にされようとしている。離れ島に流されようとする前に、恩赦で帰郷した宮崎織部を訪ねる。小四郎が言う。
「政というものは、どのように行っても、すべての者によいということはないようです。それゆえ後の世のひとに喜ばれるものを何か造っておきたくなる。・・・」
織部は秋月藩の民百姓のために石造りの橋を残している。
呆けた姿の織部が言う。
「間小四郎、おのれがおのれであるためにためらうな。悪人と呼ばれたら、悪人であることを楽しめ。それが、お前の役目なのだ。」
小さい藩が存続するために捨石となり、自らは人の呼びたいように言わせる先人たちの物語であった。
小四郎は何を残したのか?昔、橋が壊れそうになったとき、一人の百姓娘を助けたことがあり、その娘が山仕事の合間に作り出したあるものに藩が救われたといういきさつがあった。
まさに周五郎~周平~葉室麟へと受け継がれる武家ものの系譜といえよう。

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「宵山万華鏡」(森見登美彦)・・・集英社文庫
 「夜は短し歩けよ乙女」につづく二冊目である。あと「太陽の塔」を持ってはいるものの、まだ読んでいない。
この人の迷路宮のような文体に圧倒されて読むようになったが、特別なテーマやメッセージがあるわけではない。ナンセンス文学というのだろうか、内容はバカばかしいが、読んでいて不思議な匂いや味がする。読後感は、ラムネ菓子はたまた炭酸ソーダー水のようなさっぱり感がする。梨木香歩も不思議世界を構築してくれるが、あの方はちゃんとした方向感覚のようなものがあり、だれもが予定された出口へといざなってもらえる。
森見さんはどうだ。まだ分からん。「宵山万華鏡」は、京都の祇園宵山を舞台として、あの俗物的(昔はいざしらず今は)な宵山を自分自身の独自な不思議な時空間を作り出している。
見出しがこうである。
<宵山姉妹>
<宵山金魚>
<宵山劇場>
<宵山回廊>
<宵山迷宮>
<宵山万華鏡>
登場人物は、俺やら千鶴さん、柳さん、金魚を思わせる赤い浴衣の少女たち、山田川さん、乙川さん、その他キテレツな人物多数。
どことなしに懐かしい景色と匂いに満ちた乙女チックな物語であった。
今、読んでいるのは森見氏の「ペンギン・ハイウェイ」。これも小4の子どもを主人公にした、なかなかぶっ飛んだ小説である。とうぶん楽しめそうだ。


風渡る (講談社文庫)

風渡る (講談社文庫)

  • 作者: 葉室 麟
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/05/15
  • メディア: 文庫



有頂天家族 (幻冬舎文庫)

有頂天家族 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 森見 登美彦
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2010/08/05
  • メディア: 文庫



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最近、読んだ本 [本]

葉室麟と三上延

 葉室麟の「乾山晩愁」。 
葉室麟の本は、これで3冊目だったかな。
短編集で、(乾山晩愁)(永徳翔天)(等伯慕影)(雪信花匂)(一蝶幻景)が収録されている。
ほとんどが画家や工芸家の話である。短編なので、どれもあまり細かな描写はなく、時代背景や人間関係のからみあいに力点がおかれている。
この中で、私が面白かったと思うものは、(乾山晩愁)と(雪信花匂)だ。
(乾山晩愁)は、あの尾形光琳の弟尾形乾山(深省)が、兄の華やかな創作人生の影で、その栄光に憧れつつ、兄の遺した女と子どもの世話や、わが道陶芸の探求に励む。元禄時代の赤穂浪士打ち入りの事件にからめながら、大器晩成であった乾山の生き方を描いたものだ。
商人が力を持ちつつあった時代に、町人文化が花開いたさまをなかなか興味深く描いてあったと思う。

(雪信花匂)は、狩野探幽の姪として育った雪信が、狩野派の主流争いの中で、独自の画風を編み出して行く物語である。女性としてもなかなか率直に、絵の腕前を認めてもらえない時代、雪信は守清(清三郎)との恋もつらぬく。雪信は兄の不始末もあり、守清とともに京都で活路を見出そうとする。井原西鶴は「好色一代男」の中で、遊郭島原の薫太夫の小袖の秋野の絵が、雪信の描いたものとして語っている。また雪信の娘、春は春信となって、花鳥画を描くようになったそうだ。当時の女性の生き方として、職業的に閉塞していた時代に、雪信は好きな絵を描き通し、好きな人との恋もつらぬいた生き方は見事という他はない。

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三上延の「ビブリア古書堂の事件手帖」は友だちに紹介された本だ。
表紙はアニメ調の絵になっていて、若者向きの小説らしいが、今売れに売れているらしい。
私は、舞台が鎌倉というのも気に入って(尊敬する先輩が住んでいらっしゃる)、さっそく勧められるがままに買って読んだ。
まあ軽い調子で描かれていることは、否めないが、テンポのいい小説である。
一話一話が短編になっていて、それぞれの話が古本屋で伝説的になっている高価本にまつわる話だ。
一巻では、夏目漱石『漱石全集 第八巻「それから」』/小山清『落穂拾い・聖アンデルセン』/ヴィノグラード・クジミン『論理学入門』/太宰治『晩年』
二巻では、坂口三千代『クラクラ日記』/アントニイ・バージェス『時計仕掛けのオレンジ』/福田定一『名誉随筆 サラリーマン』/足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』
になっている。
主人公は、五浦大輔。二十三歳で就職難につきビブリア古書堂の店員となる。店長の篠川栞子を慕っている。その他、常連的な登場人物がいる。篠川栞子の描き方が、かなり男性的な眼から描かれているようで、カマトトというかぶりっ子のような女性に見えるのは、熟女の僻みであろうか。
それ以外は、まあ面白い。暇つぶし的な小説だといいながら、つい先ごろ三巻を見つけて買ってしまった。

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秋月記 (角川文庫)

秋月記 (角川文庫)

  • 作者: 葉室 麟
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/12/22
  • メディア: 文庫



風渡る (講談社文庫)

風渡る (講談社文庫)

  • 作者: 葉室 麟
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/05/15
  • メディア: 文庫



ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ (メディアワークス文庫)

ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ (メディアワークス文庫)

  • 作者: 三上 延
  • 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2012/06/21
  • メディア: 文庫



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時代小説 二冊 [本]

葉室麟の小説

 一冊目は、「蜩の記」。昨年度直木賞を受けた時代小説だ。2~3日で読んでしまったが、友人になかなか返すチャンスがなくて、いまだ手元にある。
ストーリーは、江戸時代のある時期。満開の山桜がはらはらと散る谷川のそばの道を歩む、檀野庄三郎が石つぶてで川魚を仕留めている少年郁太郎に出会う場面から始まる。
この少年の父、戸田秋谷は藩主の側女と不義密通をして、小姓を切り捨てたという罪で山間の屋敷に幽閉されている。
本来なら死罪という罪らしいが、藩の事情もあって、10年間藩の家譜編纂ののちに切腹ということになっている。庄三郎は、城勤めでささいなことから喧嘩沙汰を起こし、その罰として戸田秋谷の家譜編纂の仕事を助けながら見張り、10年後の切腹の見届け役を仰せつかることになって、戸田家に住みつくのだ。

秋谷の娘、薫とのロマンスあり、家譜編纂を調べるうち不審な事件を発見したり、藩と百姓の間の様々な出来事があったり、ついには庄三郎は、秋谷が身に覚えのない冤罪を背負うことに甘んじていることを知ってしまう。

というようなストーリーで、小説はハッピーエンドでは終わらない。しかし、なんとなく未来に明るい展望というものを、しっかり前面に押し出した後味の良さというものが伝わった作品であった。

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この葉室麟という人は、私と同世代の人のようで、作品もたくさんある。
図書館で、探してみると、
「実朝の首」というの本があった。もちろん借りて読んだ。
北条政子や公暁、私が興味を持ってきた「ゴトバンサン」こと後鳥羽上皇も登場する。
後鳥羽さんが水瀬付近で捕まえた盗賊で、子飼いの家来となった交野三郎(だったかな)も登場し、実朝の首をめぐって、朝廷・源氏・北条氏の三つ巴の争いが起きる。やがて、承久の乱が起こり、北条氏の天下となるのだが、鎌倉幕府の形成期の混沌とした世の中をうまく可視化した小説になっていると思った。
その中で、ちょっと気になったのは、摂津源氏や河内源氏という言葉があったこと。
摂津源氏というのは、鬼退治で有名な源頼光の父、多田満仲が兵庫県川西市多田に拠点を置いたことから、摂津源氏と言ったらしい。
河内源氏というのは、私の息子の家になっている太子町の家に行くときに、源義家の墓という看板があることが気になっていた。あの八幡太郎義家、源頼朝も足利尊氏もよりどころとした武家の始祖と英雄視される源義家は、大阪府羽曳野市出身だったのだなあ。へぇーとトリビア的な感動である。
かくいう私はだんなの家が、平家筋というからややこしい。あの明恵上人も母方が源氏方で、父方が平家方と言ったらしいから、出家するはめになったのかもしれない。
まあ、大きな目でみたらいい。人のはじめは、猿だったんだから。

とにかく葉室麟さんの本は面白かった。また、探して読んでみよう。


実朝の首

実朝の首

  • 作者: 葉室 麟
  • 出版社/メーカー: 新人物往来社
  • 発売日: 2007/05
  • メディア: 単行本



乾山晩愁 (角川文庫)

乾山晩愁 (角川文庫)

  • 作者: 葉室 麟
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/12/25
  • メディア: 文庫



秋月記

秋月記

  • 作者: 葉室 麟
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2009/01/26
  • メディア: 単行本



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僕は、そして僕たちはどう生きるか [本]

梨木香歩の本

 図書館で、さあ帰ろうというときに、眼があった本。
読み終えて返さなければいけないので、少しだけ覚書を書くことにする。
といっても、夜中の三時を回ってしまったので、まとまって書けるはずもないのだけれど。

まず、これは少年少女のために書かれたほんだろうと思うが、一般にも十二分に読める本である。
「西の魔女」が生きることの意味を追及した、ジュニア向けの本であるなら、この本は「生きるならどんな風に生きるんだ」という続編のような気がしてならない。

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登場人物は、ある意味よく似た人物たちだが、物語のはじめでは、それぞれの繋がりが不鮮明だ。
コペル・・・父母と別に暮らしている14歳の少年。あだ名はコペルニクス的転回から来ている。
ノボちゃん・・・コペルの母の弟で、染織やらなんやらをしている自然人。
ブラキ氏・・・コペルの愛犬。
ユージン・・・雑木林に囲まれた古い屋敷に1人で住んでいるコペルの友だち。学校に行けなくなっている。優人という名前をカタカナであらわしてある。
ショウコ・・・ユージンの従妹で、時々ユージンの様子を見に来ている。
米谷さん・・・戦争のとき、兵役を拒否して駒追山の洞穴に逃げ込んで、戦争が終わるまで出てこなかった人。
インジャ・・・ユージンの雑木林のどこかに隠れ住んでいる少女。DVで心が傷ついている。ショウコは、よく世話をしているらしい。
マーク・・・オーストラリアから日本へ来た青年。ショウコの母の友だちの息子。

なぜか、初めから孤立している人物同士が登場してくる。孤立というより、独立心が旺盛なコペルやショウコ。
ふとしたことで、AVの監督にだまされ、心身ともに傷ついて、孤立を選んだインジャ。その物語が語られ、ユージンの雑木林に隠れ住むようになった経過がわかる。
ユージンが登校拒否になった理由が、熱血教師の自己満足的な取り組み(ユージンの大事にしていた鶏を巧妙に説得したあげく、解剖して料理してしまうという出来事)によってであることが分かったことは、コペルにとっても驚きであったし、読み手にも衝撃的であった、。
物語は、植物を採取して、料理して、まるでキャンプ生活のような舞台設定の中で、展開していく。

土地が開発業者によって、壊されていくことに反対したユージンの祖母。その繋がりでユージンは米谷さんという兵役拒否をした人に接することになる。彼は、米谷さんは、
『・・人間って弱いものだから、集団の中にいるとつい、皆と同じ行動を取ったり、同じように考えがちになる。あそこで、たった一人になって、初めて純粋に僕はどう考えるのか、これからどう生きるのか、って考えられるようになった。そしたら、次にじゃあ、僕たちは、って考えられたんだ。』
と話したらしい。そして、『群れのために滅私奉公というか、自分の命まで簡単に投げ出すことは、アリやハチでもできる。・・・・動物は、人間は、もっと進化した、『群れのため』にできる行動があるはずじゃないかって…』

そして、この登場人物たちはオーストラリア人のマークも含め、お互いの(今ここに居る)理由を理解するようになり、(新しい繋がり)を築いていこうとする。なかなか出てこれないインジャにも呼びかけて。

私たちは、面倒だったり、忙しかったりするので、純粋にこういった関係をのみ追及することはしないが、どこかでこんな気のおけない、必要なときに必要な手助けができるような繋がりを求めているのかもしれない。
コペル君の心理描写が、きわめて丁寧に描かれていると思った。だから、読み手が一緒に成長していけると思う。

読んでいるときは、言葉がすとんと落ちて理解できたのに、まとめるとなると難しいものだ。へんにまとめると、作者の意図を曲解することになりかねないので、このあたりで、置くとする。




ピスタチオ

ピスタチオ

  • 作者: 梨木 香歩
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2010/10
  • メディア: 単行本



不思議な羅針盤

不思議な羅針盤

  • 作者: 梨木 香歩
  • 出版社/メーカー: 文化出版局
  • 発売日: 2010/12/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯

ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯

  • 作者: クレア・キップス
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/11/10
  • メディア: 単行本



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「紀ノ川」 [本]

有吉佐和子の本

 「紀ノ川」という本を読むきっかけになったのは、BS3で山田洋次が選んだ日本の家族100選の映画「紀ノ川」である。最後のあたりで、病床の祖母に孫娘が古典を読んで聞かせるところで、妙に印象に残った部分があった。
(・・・御門はじまり給いてより、八十二代にあたりて後鳥羽院と申すおはしましき。御諱は尊成【たかひら】・・・)
以前の記事で後鳥羽院に関するものを数回書いたと思うが、またしてもこの部分が気になり、原作を読んでみたいと思った。
有吉佐和子では、「複合汚染」という本があまりにも有名で、読んだ記憶があるが、早速文庫本を買って読んでみた。

有吉佐和子の故郷、和歌山が舞台になった明治・大正・昭和を生きる女、なんと五代にわたる物語であった。和歌山は大阪から近く、九度山や根来寺などは行ったこともあったので、親しみが持てた。
九度山、紀本の大地主の大ごっさんといわれる豊乃、娘、孫娘の花、花の娘の文緒、文緒の娘の華子と女性の血縁が、まるで紀ノ川の豊かな水流のように時代とともに続く物語であった。
時代にしたがって、女性たちの感性や思想が世相に影響されて、変わっていく。しかし、紀ノ川が満々と水をたたえ、今も変わらずに流れているように、女性たちの中にも故郷を愛し、懐かしむ心がかわらずにあるように思った。

くだんの台詞は、花が六十谷【むそだに】の地で病に臥せっているときに、孫娘の華子が本を読んでやっている場面であった。出典は、増鏡でちょうど後鳥羽院のあたりを読み聞かせていた。
一つ謎がとけた感がした。

この「紀ノ川」は、地方のブルジョワジーが当時いかに贅沢でたいそうな暮らしをしていたかが解って、面白かった。たとえば、花が紀本から六十谷へ嫁ぐとき、かごに乗って、そのかごを舟に乗せて、二日がかりで行く場面である。婚礼も三日三晩、衣装をとっかえひっかえして行ったようだ。
きものも京都で誂え、こまごまとした種類も書いてあり、面白かったので、最後まで一気に読んでしまった。

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次は、三部作といわれる「日高川」か「有田川」を読みたいと思い、本屋に行ったがあいにくなかった。
そのため、「香華」という分厚い文庫本を買った。
まだ数十ページしか読んでいないが、やはり、和歌山の地主階級の家に生まれた女性とその娘が登場する。東京へ舞台を移し、また静岡に移すが、そのつど落ちぶれていく。母子の葛藤と人生が描かれているようだ。
文庫本は、字が小さく目が疲れるのだが、楽しみで読んでいる。


一の糸 (新潮文庫)

一の糸 (新潮文庫)

  • 作者: 有吉 佐和子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/10
  • メディア: 文庫



華岡青洲の妻 (新潮文庫)

華岡青洲の妻 (新潮文庫)

  • 作者: 有吉 佐和子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1970/01
  • メディア: 文庫



和宮様御留 (講談社文庫 あ 2-1)

和宮様御留 (講談社文庫 あ 2-1)

  • 作者: 有吉 佐和子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1981/07/13
  • メディア: 文庫



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最近の読書とグッズ [本]

読書にはいい季節

 6月から7月にかけては、地震のこともあって、「地球形成」関係の本を探して読んでいました。
8月からは、「きもの」関係の勉強をしようと、図書館に通ったりしていました。
でも、なかなか集中して、取り組めないのは歳のせいか?歳のせいにはしたくないけど、眼が疲れたり、肩が凝ったりするのです。

そんな時は、少し気楽な本を合間によんだりしていました。
たとえば「暮らしの手帳」や「七緒」などの雑誌、高田郁(かおる)さんの小説「心星ひとつ」が本屋に並んだときは、飛びついて買って読みました。
今回の「心星ひとつ」は、大きな展開がありました。念願の自分の料理屋を持たないかと誘ってくれる人があらわれたり、心密かに想っている人の家族から、嫁に望まれたりと。どちらも自分からチャンスを手放してしまうんですが。それは、「心星」を強く持っていたからなんですね。
この本の、面白さは美味しそうな料理がいろいろと出てくることにもあるのです。しかも、この料理は高田郁さんが、実際に作ってみて、物語に登場させているのです。最後の何ページかに物語に出てくる料理の作り方を書いてくれています。

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もう一冊は、友だちに借りた本です。
中谷比佐子さんの「きものという農業」です。簡単に言ってしまうと絹や麻、綿などの素材で創られるきものを、農業という視点で見直してみようという内容なのですが、いろいろ知らないことがあったり、考えさせられたりすることがありました。
たとえば、「古事記」や「日本書紀」以前に書かれたという「ほつまつたゑ」という本の存在は知らなかったし、
麻という素材が大地を浄化し、回復する力を持っていたということにも驚きました。それぞれの素材がほとんど輸入にたよっている現況、しかしわずかではあるけれど、国産のもので滅びかけた素材を、甦らせようと努力している人たちにスポットをあてていました。今の衣替えは、実態に合っていない、二十四節気に合わせて、融通を持たせて着たらどうかという考えには、賛成させられるものがありました。
読みやすくいい本でした。

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それから、今朝のNHKの「街角情報」コーナーで紹介していたグッズを、東急ハンズで見つけました。
「Flat Light」という読書灯です。店員さんに尋ねると、すぐに見つかりました。1260円で、思っていた以上に安かったです。本に挟んで使えたり、卓上に足を広げて置いたりできる優れものです。
最近、風呂の中で本をゆっくり読むことが多いのですが、風呂の中の電燈は二つあるけど、やはり本を読むには暗かったので、大助かりです。ボタン電池を二つ買ってしまいましたが、ちゃんと初めから付いていました。

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さて、読書の秋です。食欲の秋に負けないようにします。


心星ひとつ―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-7 時代小説文庫)

心星ひとつ―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-7 時代小説文庫)

  • 作者: 高田 郁
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2011/08
  • メディア: 文庫



二十四節気ときもの

二十四節気ときもの

  • 作者: 中谷 比佐子
  • 出版社/メーカー: 三五館
  • 発売日: 2009/05/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



きものという農業―大地からきものを作る人たち

きものという農業―大地からきものを作る人たち

  • 作者: 中谷 比佐子
  • 出版社/メーカー: 三五館
  • 発売日: 2007/05/22
  • メディア: 単行本



きものを着たら おとな思草  着物を通して知る日本の心

きものを着たら おとな思草 着物を通して知る日本の心

  • 作者: 中谷 比佐子
  • 出版社/メーカー: 角川学芸出版
  • 発売日: 2005/09/21
  • メディア: 単行本



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暮らしの手帳 [本]

やはりいい本だ

 さいきん、図書館で本を借りるとき、必要な本というか勉強するために借りる本の他に、気軽に読める雑誌を一緒に借りています。
先日、ひさしぶりに「暮らしの手帳」を借りてみたんです。
それが、読み応えがありました。なにしろ、肩の凝らない読み物がたっぷりとあって、やはりいい本だなと思いました。
 そのあと、最新号を自分で買いました。夢があり、ちょっとした暮らしの指針になるような小さな記事がいっぱい載っています。
 たとえば、最新号でいえば、「ファウニのムーミン人形」「続・はじめての刺繍」「浴衣地で作る夏の室内着」などです。
それと「冷凍・解凍100のコツ」という記事がありました。冷凍・解凍を失敗しないための100の知恵ですよ。これは、すごく役に立ちそうです。それにしても、よく100もの知恵を集めたものだと感心しました。
おまけに花森安治さんの一筆箋が付録についていたので、これも嬉しいことでした。

    DSC00394-1.jpg

 私が「暮らしの手帳」を初めて読んだ頃は、大学生の頃です。たしか、ページの隅っこに料理のヒント集や「すてきなあなたに」という記事があり、ペラペラ漫画の位置にあったものですから、探し易くて、なんども探して読んだものです。
他の雑誌と同じように、本離れがすすんでいるのか、最近は二か月に一冊が出ているようです。現在の定価は900円。ひと月にすれば、たったの450円ですよ。週刊誌なみですよ。

 図書館で借りた方は、そのまま返すのももったいないので、「楽しい連続編み」というページを開けて、かぎ針編みを始めました。シーズンはずれになった時に、安くなった毛糸を買うくせがあるものですから、毛糸はたくさんあるのです。
とりあえず、モチーフを作り始めて、連続編みに挑戦しています。

    DSC00395-2.jpg

楽しいですね。あっというまに四枚の連続モチーフができました。時間のある時にせっせと編んでひざかけでも作ります。
そういえば、この何日かぐんと涼しくなってきたことが、毛糸編みに向かわせたのかもしれません。



暮しの手帖 2011年 10月号 [雑誌]

暮しの手帖 2011年 10月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 暮しの手帖社
  • 発売日: 2011/09/24
  • メディア: 雑誌



暮しの手帖  別冊 暮しの手帖の評判料理 春夏の保存版

暮しの手帖 別冊 暮しの手帖の評判料理 春夏の保存版

  • 作者: 暮しの手帖
  • 出版社/メーカー: 暮しの手帖社
  • 発売日: 2011/04/05
  • メディア: 雑誌



すてきなあなたに

すてきなあなたに

  • 作者: 大橋 鎮子
  • 出版社/メーカー: 暮しの手帖社
  • 発売日: 1994/09
  • メディア: 単行本



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図書館で借りた絵本 [本]

藤城清治&太田光のコラボ絵本!

 先日、なにかの対談番組で藤城清治さんが出ておられた。
午前中に4時間ほど散歩に出られることが日課になっている。少し前までは、午後から仕事を朝方までやっていた。と話しておられたが、87歳の現役影絵画家だ。

「暮らしの手帳」に童話の挿絵を美しい影絵で表しておられたのが、なつかしい。

インタビューで「爆笑問題」の太田光さんとコラボで絵本を作ったとおっしゃっていたのが、印象に残っていた。

先週の土曜日に、市の図書館で見つけた。
「マボロシの鳥」という新刊書だが借りれるというので、さっそく借りてきた。

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81ページの絵本のうち、挿絵が41枚入っている。なかなかの力の入れようだ。
太田光さんの文章も、独特の言い回しがあって、どちらかというと大人向きの話だが、読みやすい。
そして、絵が美しい。
主人公の一人のチカブーが登場するときは、ハッとして妖しい。眼に力がこもっている。

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魔術師のチカブーは、マボロシの鳥のおかげで人気を博していたが、ある日逃げられる。

落ち目のチカブーと以前のショーを見たファンのやりとりが面白い。

マボロシの鳥は、違う国に行って、ある勇気のある若者に捕えられる。

あろうことか、権力と名声を得た若者は、マボロシの鳥をかごの中から逃がしてやる。

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ある日、よれよれになったチカブーは、絵の中にマボロシの鳥を見つける。

「たしかにおれの鳥だー。」

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マボロシの鳥ってなんだったんだろう。夢?希望?
「・・・この世界は、きっとどこかとつながっている。」
というのが、最後の文章だ。

太田光さんの世界観が垣間見えるようだ。
そのお話に惚れ込んだ藤城さんが、老骨に鞭打って(?いや、生き方は我々より若いかも)、41枚のきれいなきれいな挿絵を創作されたのだ。

一度、手に取ってごらんください。
だれもが楽しめる本だと思う。


絵本マボロシの鳥

絵本マボロシの鳥

  • 作者: 藤城 清治
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/05/17
  • メディア: 単行本



マボロシの鳥

マボロシの鳥

  • 作者: 太田 光
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/10/29
  • メディア: 単行本



銀河鉄道の夜

銀河鉄道の夜

  • 作者: 宮沢 賢治
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1982/12/17
  • メディア: ハードカバー



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