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本「女歌の系譜」 [本]

久々の本の記事

 2週間借りれる市の図書館の本、同じ本を返しては借りたので、8週目にやっと読み終えることができた。
馬場あき子著の「女歌の系譜」という本で、私にとっては難解な本の部類に入る。
今までだったら読めそうにない本は、すぐ返してしまうというパターンだったが、少しは根気が出てきたか。
『女歌』おんなうたと読むらしいが、万葉集の額田王から室町時代の永福門院ショウ子(金ヘンに章と書く)まで、およそ700年くらいの間の女流歌人の和歌についてが述べられている。

私は自分では短歌はあまり作れないが、百人一首は昔から好きで、最近は和歌の本を読むのが好きになっている。
この本を読み始めて、馬場あき子さんはなんと文章の上手い人で、表現力のある人かと思うようになってきた。その魅力で、8週間も読みすすめることが出来たのだと思う。
この手の本を読むときには、和歌や長歌をいちいち解釈しながらでないと、前にすすめない。いつもいつも作者が解釈してくれる訳ではない。ときには、閉口して本を閉じてしまうこともある。
どんな人が本に登場するかというと、

 1、額田王~女時(めどき)の韻律~
 2、大伴坂上郎女~女歌の領域~
 3、小野小町~放浪幻想~
 4、伊勢~女の晴れ歌~
 5、小侍従~<艶>の心意気~
 6、建礼門院右京太夫~悲歌の風景~
 7、俊成卿女~醒めたる<艶>~
 8、宮内卿~夭折の哀歌~
 9、永福門院ショウシ~無明の世に咲く~

和泉式部と式子内親王については、馬場あき子さんは以前に本にしているとのことで、省かれたそうだ。
興味を持って読んだのは、伊勢・俊成卿女・宮内卿・永福門院ショウシあたりであろうか。
伊勢については、かなり奔放な人だったらしいが、紫式部をはじめ、多くの平安女性が手本にした方だそうだ。俊成卿女と宮内卿は、新古今集時代の後鳥羽院の歌壇でともに大活躍したライバル同士で、かたや長寿をまっとうし、かたや20代そこそこで夭折してしまう才女だ。
室町時代の永福門院ショウシも私自身あまり知らなかったこともあり、興味をもった。

万葉集以来の日本の抒情をうたった「ますらおぶり」と「たおやめぶり」。二大文体の片方を担ってきた「女歌」には、いろんな役割があった。儀礼を盛り上げ、大王をたたえるための賛歌であったり、神に祈り「乞う」ための歌であったり、「恋」を表現するための相聞歌であったりした。
そんなに頻繁に遠出したり出来なかった時代でもある。文机のかたわらに古今の冊子や文庫を引き寄せて、うす暗い灯かりの下での創作には、なにかしらけなげな熱意を感じる。
そして、解かったことは、男たちが表舞台で政争に明け暮れている間に、ただじっと耐え忍んでいただけでなく、ちゃんと身の回りの男たちに物申している女たちもたくさんいたということである。

すごく面白かったので、いずれ購入しようと思っている。
また、さいごのあたりで後深草院二条が書いた「とはずがたり」に触れてあった。最近、本屋で見つけたので手に入れ、読み始めているが、これがまたすごい本で女房日記というジャンルに属するが、事実にもとづいた散文なのでちがった面白さがある。


女歌の系譜 (朝日選書)

女歌の系譜 (朝日選書)

  • 作者: 馬場 あき子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 1997/04
  • メディア: 単行本



式子内親王 (講談社文庫)

式子内親王 (講談社文庫)

  • 作者: 馬場 あき子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1979/07
  • メディア: 文庫



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「多読術」を読んで [本]

松岡正剛さんの「多読術」を読んで

 年末から読んでいた、ちくまプリマー新書の「多読術」をやっと読み上げた。わりと読みやすい本だったが、電車に乗っている時間に限っていたので、今までかかった。松岡正剛さんは、編集工学研究という独自の仕事をされている方で、名前は知っていたが、今回初めて著書を読んだ。
「多読術」なかなか魅力的な言葉だ。まず目次を引用してみよう。

第一章 多読・少読・広読・狭読
第二章 多様性を育てていく
第三章 読書の方法をさぐる
第四章 読書することは編集すること
第六章 キーブックを選ぶ
第七章 読書の未来

となっている。正剛さんが(本好き)になったきっかけは、お母様にクリスマスプレゼントとして「ノンちゃん雲に乗る」をもらったことだと書いてあった。私も母にプレゼントとして本をもらったことがあったが、私の場合は母に手伝いの報償としてもらった。たしか、アンデルセンの「即興詩人」だったと思う。たしか、正剛さんもアンデルセンの「絵のない絵本」も取り上げていたような気がする。

第六章まで読み進んで、私は読書ノートを作っていたことを思い出した。ずいぶん途切れている。高田郁の本など読むこと事態が面白くて、ついにノートに残さずじまいだった。第六章はとくに面白かったような気がする。正剛さんは、およそ三冊くらいを一度に読む(近い時期に)と書いていたが、三冊くらいのキーブックというのもあるようだ。キーブックというのは、その名のとおり、読書の中心になるような重要な本のことをいい、第六章には、たとえば日本の歴史や文化の世界観が列挙されているものに、宮本常一の「忘れられた日本人」、折口信夫の「古代研究」、網野義彦の「日本の歴史を読み直す」の三冊を挙げている。

その話を正月に帰ってきた娘と話をしていると、本棚をごそごそしていた娘が折口信夫の本以外の本を見つけてきて、テーブルの上に置き「これあったで、持って帰るわな。」だって。
私はびっくりして、「ええ~、あったの。」たぶん亡くなったつれあいが買って、書棚に放り込んでいたのだろうが、今更ながら自分が理想的な読書環境にあったのだと思い知らされる。
「ちゃんと返してよ。」と言いいながら、娘も本が好きで良かったと思ったことだ。

キーブックというのは、その本を読めば済むというものではなく、そこからさらに疑問が湧いたり、新しい問題を提起する性質を豊にはらんでいるという物だと思う。結果を重視するのでなく、限りない道を暗示する本なのだ。

そうそう、第七章では本のデジタル化にも触れていたが、それよりも読書をするときのサポートツールに言及しているところが面白かった。おおざっぱに言うと、辞書類、年表、地図はもとより歳時記、理科年表、人名事典、用語集、術後集があれば、かなりのサポートができるようだ。最近、私も読書のみならず、美術館に行ったときの思い出しをするときに年表や地図の必要性を感じるし、人名辞典があればなあと思うことがよくある。
この本にも分からない言葉がいっぱいあったので、また辞書を引きながら二度読みをしようと思う。

本日、松岡正剛さんの「知の編集工学」と「日本という方法」、宮本常一さんの「家郷の訓」と言う本を買って来た。


多読術 (ちくまプリマー新書)

多読術 (ちくまプリマー新書)

  • 作者: 松岡 正剛
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2009/04/08
  • メディア: 新書



知の編集工学 (朝日文庫)

知の編集工学 (朝日文庫)

  • 作者: 松岡 正剛
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2001/02
  • メディア: 文庫



日本という方法―おもかげ・うつろいの文化 (NHKブックス)

日本という方法―おもかげ・うつろいの文化 (NHKブックス)

  • 作者: 松岡 正剛
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2006/09
  • メディア: 単行本



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味わい深い小説 [本]

心あたたまる時代小説

 先日、高田郁(たかだかおる)の時代小説「銀二貫」を読み上げた。「澪つくし料理帖」シリーズは、四巻とも読み上げたので、「銀二貫」をすぐ本屋に行って購入した。
(過去記事 http://kimonodaisuki.blog.so-net.ne.jp/2010-10-26

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これが良かった。
舞台は江戸時代の大阪天満、火事で全焼した天満宮の再建の願いを込めて寄進するはずの『銀二貫』を寒天商人の和助があだ討ちを買うのに使ってしまう。結局傷を負った武士は死んでしまうが、残された男の子は和助の店に引き取られ、商人としての道を歩む。

大阪商人の気概やおきて、何を大事にしてきたかが読んでいて、興味深い。利益追求一辺倒ではなく、地域の氏神に対する信仰や客の信頼、地道な努力を重ねていく粘り強さ。現代の企業が忘れているものがここにあるような気がする。目の前の利益のみを追求するものは、長続きしない。人を育て、人と人の信頼を育てて、はじめて商いが成り立つことを訴えていた。武士の身分や私恨を捨て、丁稚として生きていく松吉、銀二貫を惜しげもなく差し出した和助のほんわかとした人柄、そんなお人好しの主人を辛口でなじるが、支えていく姿勢を崩さない番頭の善次郎、思いがけない姿で再登場する料理屋のいとはんだった真帆。登場人物が生き生きとして、いとおしい。
あのあだ討ち買いで渡した銀二貫も、小説の終わりのほうでマジックを果たす。終わり方も素晴らしかった。
寒天についてのリサーチもかなり出来ていて、これを読んだ後、さっそく食べたくなって、羊羹を買いに行った。

高田郁は、素晴らしい書き手である。新しい小説が待ち遠しい。


出世花 (祥伝社文庫)

出世花 (祥伝社文庫)

  • 作者: 高田 郁
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2008/06/12
  • メディア: 文庫



銀二貫

銀二貫

  • 作者: 高田 郁
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2009/06
  • メディア: 単行本



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読書の秋 [本]

みをつくし料理帖シリーズ

 先輩の方から、勧められて読み始めた高田郁(たかだかおる)のみをつくし料理帖シリーズの時代小説。たまたま本屋で眼に入ったのが、最新刊の『今朝の春』だった。いっきに読んでしまって、友だちに貸したので手元にはない。


今朝の春―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-4 時代小説文庫)

今朝の春―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-4 時代小説文庫)

  • 作者: 高田 郁
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2010/09
  • メディア: 文庫



大坂の天満一兆庵に奉公にあがった澪は、まもなく料理屋が火事に見舞われ、主人夫妻とともに江戸に主人の息子が出している料理屋にたよってくる。天満一兆庵の江戸支店ともいうべき料理屋は、すでに借金で人出に渡っていて、息子の佐兵衛も行く方知れずになっていた。主の嘉兵衛は、ショックで江戸の宿で命を落としてしまう。澪はご寮さんの芳とともに江戸のつる家で働くことになる。

第四巻目の『今朝の春』は、以下四つの短編から構成されており、それぞれが前後とのつながりを持つ。第一話は、「花嫁御寮」つる家の懇意にしている商家の娘が、大奥にあがる話があり、包丁の持ち方を澪が教えることになる。娘は娘で自分が慕う医者の息子に嫁ぐために大奥でハクをつけておきたいという目論見がからむ。そして・・・。
第二話は、「友待つ雪」澪の幼馴染、野江が吉原の苦界にいるが、どうやら戯作者があさひ太夫の出生について嗅ぎまわっているらしい。友だちをそっとしておいてやりたい澪は、戯作者に持ちかける。戯作者の好物を使って、うならすような料理を作れば、友の話を戯作に書くことを止めてくれるかと。
第三話は、「寒紅」つる家で働いているおりょうの亭主伊佐三に、若い愛人ができたらしいという。二人には太一という口が聞けない子どもがいる。新宿で泊りがけで働いている伊佐三の本当の胸のうちは?
第四話は、「今朝の春」いよいよ澪は、江戸一番といわれる登龍楼と料理の競い合いをすることになる。材料は寒鰆で、年末の数日間で料理を完成させないといけない。つる家のためにも、友のためにも勝ちたいのだが・・・。

といった内容であった。料理が題材になっており、年若い澪が失敗に失敗を重ねながら、どういう料理を目指していくのか、なかなか興味深い。陰ながら支えてくれる多くの人たち。また、いやというほど浮世の厳しさを見せ付けられることも。大きな夢をはぐくみながら、目の前の小さな事件に立ち向かう澪、物語の構成もなかなか見事で飽きさせない。

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おととい、天王寺に出た時に、本屋に立ち寄って、1~3巻を買った。順序が前後するが、また読みすすめるのが楽しみだ。
それから各冊の巻末に、「澪の料理帖」というのが付いていて、物語に出てくる料理の作り方が書いてある。読んでいる最中に、これ食べてみたいなあと思わせる料理があるので、なかなか親切なことだ。江戸と大坂の味付けの違いなども、物語にでてくるが、なるほどと思える箇所がいくつかあった。たとえば、1巻目に大坂では昆布を多く使うが、江戸では鰹で出汁をとることが多いとか、薄口醤油と濃い口醤油の違いなどである。

読みたい本が、いつも傍らにあるというのは、贅沢な心地がする。




八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)

八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)

  • 作者: 高田 郁
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2009/05
  • メディア: 文庫



花散らしの雨 みをつくし料理帖

花散らしの雨 みをつくし料理帖

  • 作者: 高田 郁
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2009/10
  • メディア: 文庫



想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)

想い雲―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)

  • 作者: 高田 郁
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2010/03
  • メディア: 文庫



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『天地明察』 [本]

知的冒険の本

 5月の連休明けに購入していた「冲方丁」(うぶかたとう)の『天地明察』を、昨日の7日読み上げた。毎週、BS2の週間ブックレビューで面白そうな本をチェックしているのだが、これもその一冊だ。過去に読んだ時代物の傑作、「いのうえひさし」の『四千万歩の男』でいたく感動した私は、その分野の本だなとぴんと来た。それから、主人公が幕府の碁方であり、算術家であり、天文学者であるという点にも惹かれた。

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<あらまし>
幕府の碁方として、江戸城に上覧碁を打ちに行く渋川春海(安井算哲)は、碁を極めるだけの日常に飽いていた。そんな日、関孝和の非凡な算術の才能を知り、作問を投げかける。数日後、春海の設問は解答が出せない「無術」という愚問であったことが、関の気配から知れる。自分の未熟さに打ちひしがれる春海。数日後、老中の酒井忠清から建部という右筆の旗本と伊藤という御典医たちと共に日本各地の北極星の測量をしろという密命が下り、出発する。そして、天測を元にした計算で現在使われている宣明暦が、誤っていることに気付かされる。そこから、春海の新しい暦作りが始まって行く。

<感想>
私は、前述の『四千万歩の男』の感動を今一度という思いで読んだ。碁も算術もその内容にあまり、深入りはしていなかった。碁は昔、中国で占星術に使われたということは知っていた。天元が北極星だということも、三々が星と言われることも知っていたので、もう少し深入りしてほしかった。算術の方は、解答の意味が少々はしょってあったので、分かりにくかった。その代わり、神道がやたら詳しく書いてあった。それは、暦というものがその時その時の権力者の手中にあったのだから、当然といえば当然だが。それから、会津藩の保科正之という人と大老になった酒井忠清という人の偉さがよく分かった。三大将軍の家光の頃に次々と幕府の体制を固めることになったシステムが、保科の建白によるものだと分かった。
そして、幕府天文方が作られたのは、渋川春海の功績によるものであるが、多くの智の結集によって成し遂げられたものでもあるのだ。およそ100年の後、『四千万歩の男』である伊能忠敬も幕府天文方に関わっていく。「いのうえひさし」と「冲方丁」を較べてはかわいそうだが、いのうえが書いたものは、名文で読み物としても非常に長く、おしまいまで楽しませてくれ、なおかつ、年をとってからでも、可能性があるという勇気をもらった。「冲方丁」のは、いわば青春の書、見ていてはらはらするような内容、主人公が鍛えられていく過程がほほえましくもあった。とにかく、外国から輸入した暦ではなく、日本人が自分の国の暦を血のにじむような努力で作成したことは、快哉だといえよう。
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ちかごろの読書 [本]

少しは読まないと

 はじめに今日は(昨日になるかな)立春、だいぶ日が長くなってきましたね。春らしい写真をお一つ。職場の梅の花が咲きました。白梅の方は、少し日当たりがいいので、先に7分咲きです。紅梅も一つ二つ、ほころんでいました。

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 そして、本題の本について。
電車に乗ったときなど、退屈なので本を読むようにしている。それ以外では、よほど興が乗らないと、最近は読まない。テレビやパソコン、編み物に時間が盗られてしまう。

昨年の暮れから読み始めた本、一つは松本清張の『球形の荒野』。昨年は太宰治とともに生誕百年でテレビなどにもたびたび登場していた。松本清張は、若い頃あまり読まなかった。どちらかというと横溝正史の本ばかり読んでいた。松本清張の本をあれこれ探していて、ぺらぺらめくっていると、始めの部分によく知っている地名やお寺の名前が出てきた。西ノ京・薬師寺・唐招提寺・岡寺・橘寺などなど。それで読んでみようと思ったのだ。

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内容は、戦後20年が過ぎた頃の話で、登場人物の一部は戦争と関わっていた。お寺の芳名帳の筆跡から謎が始まっていくのだが、文章がいい。下巻の末尾に半藤一利さんが書いているとおり、出だしが名文であった。それで、読む気になったのかもしれない。内容も推理小説に必須条件の次を読みたいと思わせるものがあった。読んでいる途中で何回か思ったことだが、「なんで携帯電話をかけないの?」と。その頃はまだそんな便利なものがあるはずもないのに、どっぷりと現代生活のただ中に浸かっている自分がおかしかった。

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もう一冊は、藤原伊織の『ダナエ』。グスタフ・クリムトの「ダナエ」かと思ったが、実はレンブラントの「ダナエ」という絵があって、それにまつわる短編などで構成されている。藤原伊織は2007年に59歳で亡くなった。団塊の世代を代表するハードボイルド作家であるが、『テロリストのパラソル』で直木賞をとっている。惜しい人の一人である。この文庫本には他に『まぼろしの虹』と『水母』が収録されているが、どれもいい味を出している。解説で小池眞理子さんが書いているが、<荒ぶる諦観>とリリシズム、ロマンティシズムが混在しているが、カッコイイ作者だなと思った。ちなみにレンブラントの『ダナエ』はエルミタージュ美術館で盗難にあった絵だそうだ。この絵は私も知らなかった。藤原伊織はひょっとして西洋美術や現代美術に造詣が深かったのかもしれないなあ。

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テロリストのパラソル (講談社文庫)

テロリストのパラソル (講談社文庫)

  • 作者: 藤原 伊織
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1998/07
  • メディア: 文庫



シリウスの道〈上〉 (文春文庫)

シリウスの道〈上〉 (文春文庫)

  • 作者: 藤原 伊織
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 文庫



シリウスの道〈下〉 (文春文庫)

シリウスの道〈下〉 (文春文庫)

  • 作者: 藤原 伊織
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 文庫



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読書ノート 梨木編 [本]

梨木香歩の本 二冊

 10月の終わりごろから、詠み進めた梨木香歩作『沼地のある森を抜けて』を11月はじめに読み終えた。いつもながら、日常の生活を根底から揺さぶるような題材であり、奇想天外な展開力である。

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久美というオールドミスが、時子叔母の死を契機に叔母のマンションを引き継ぐ。意外な家宝といっしょに。それは、なんとぬか床である。そして、このぬか床は毎日かき回してやらないといけない厄介なもので、久美の生活を規定するようになっていく。ある日、そのぬか床から卵が発生し、過去のだれかに似たものが生まれてくる。・・・一族に隠された秘密は、いろんな登場人物によって、浮き彫りにされていく。久美は、ぬか床と自分の一族の関係を解明しようとして、叔母の友だちであった風野さんと一緒にある島に行く。

私は、久々に読書ノートを取り出して、キーワードを書き込んだ。ぬか床、酵母菌、微生物、ミクロフローラ、無性生殖、有性生殖など。

読書ノートには感想などは、書かない。キーワードであったり、登場人物であったり、たまには目次をそのまま写すくらいだ。いつ読み始めて、いつ読み終えたということも。ただし、読み始めの期日はかなりあやしい。

『沼地のある森を抜けて』の目次は、久美の物語が二つ入ったあと、(かつて風に靡く白銀の草原があったシマの話Ⅰ)という挿話が入っている。それが、三分の一の量で三回、入ってくる。(かつて風に靡く・・・)の部分はかなり象徴的な話で、だれかの抽象絵画を想像させるが、最後に見事に久美の物語に合流している。

ようするに、これは命の物語である。命がタナトス(死)と非常に結びついた形で展開されていく。原始は細胞が分裂していくことによって、生命体が増えてきた。いつのころからか、生命は二つのものが一つになる有性生殖という形で繁殖するようになる。愛や恋といったものを超越して、生命が誕生していく。そんな不思議な光景をシマで体験していく久美。またまた、不可思議な梨木ワールドに誘われてしまった。

もう一冊は、『村田エフェンディ滞土録』。これは、ずっと前に買って読まずにツン読していた本だ。『沼地の・・・が面白かったので、探し出して読み出した。

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二つの源氏物語 [本]

今に通じる『源氏物語』

 小6の頃に『源氏物語』のジュニア版を読んだことがあるのだが、夏前から瀬戸内寂聴版『源氏物語』を読み始めている。毎年(三年前から)『きもの文化検定』を受けていて、いよいよ今年は一級の試験があるのだが、その課題の一つに寂聴版の『源氏物語』の(桐壺)を読むようにというのがあった。早速、読み始めるとこれが面白い。

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(桐壺)というのは、桐壺帝と桐壺の更衣の間に生まれた光源氏の幼少時代と十二歳で元服する間のプロローグ場面なので、文庫本の44ページ分しかないのだが、ここで止めるわけにはいかない。千年以上も前の物語とは思えない人情の機微が、そこここに散りばめてある。光源氏もその他の登場人物も躍動的な人間性を帯びている。第一巻は、(桐壺)(帚木)(空蝉)(夕顔)(若紫)であるが、面白かったのは、(空蝉)はなぜ、そういう名で呼ばれたのかというと、ある夜光源氏が人妻である女性の寝所に忍び入って、思いを遂げようとするが、衣装は空っぽであった。そのことから、名前が由来したのだ。(若紫)は、昔から私が感情移入してきた紫の上が登場する。第二巻は、(末摘花)(紅葉賀)(花宴)(葵)(賢木)(花散里)の六帖。第五巻までの三十三帖を一気に読んでしまった。人と人が織り成す感情のやりとり、自分への言い聞かせや言い訳がじつに細やかで、おかしかったり、感心したりする。現代の小説でもこれだけ人間の感情を分析して、細やかに書いたものはそんなにないと思う。

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そんな折りに、友だちが村山リウさんの『源氏物語』講義のCDを貸してくれた。桐壺だけで、CDが五巻もあり、54帖分でなんと205巻もある。村山リウさんの講義は始めて聴くが、非常に面白い。声はガラッパチに近いが、少しずつ原文を読みながら、ユーモアを交えながら解釈をしてくれる。源氏物語を読む時の、基本的なスタンスを教えてくれる。一巻目にこんなことを言っておられた。『源氏物語』には、当時の常識がある。身分の高い者は、それだけ愛情も多く受けて当然だという常識が。そして、紫式部にはそれだけではなくて美しさや心栄えや芸術性の高い人が愛情を受けるという考えがある。それから、あなた方(視聴者)は、どう思うのかという三つの考えを念頭に置いておかなければいけない。私は、なるほどなと思った。当時の常識と紫式部の考えと自分の考え、その三つがないと『源氏物語』の世界を理解することは、不可能だろうと思った。ただし、そのことはほんの足がかりに過ぎないのだけれど。『きもの文化検定』の事前学習がおもわぬ方に発展してしまったが、時間があるかぎり、読み進めてみたいし、村山さんの講義も聞いてみたい。


源氏物語 巻一 (講談社文庫)

源氏物語 巻一 (講談社文庫)

  • 作者: 瀬戸内 寂聴
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/01/12
  • メディア: 文庫



源氏物語〈上巻〉

源氏物語〈上巻〉

  • 作者: 村山 リウ
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 1987/01
  • メディア: -



源氏物語〈下巻〉

源氏物語〈下巻〉

  • 作者: 村山 リウ
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 1987/01
  • メディア: 単行本



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f植物園の巣穴 [本]

解けた不思議世界

 17日に買った単行本『f植物園の巣穴』梨木香歩作、朝日新聞出版。装丁がまた素晴らしい。加藤竹斎という人の『小石川植物園植物図』から選んだ絵だというのだが、江戸時代の方かもしれない。めずらしく3日で読み上げた。けっして速い方ではないが、一度に二冊三冊の本を読んでいるために、読み上げる日数がかかってしまう。

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予想どおり、不思議世界・異界譚であった。『家守綺譚』もそうであったが、いっそう拍車がかかっているように思われる。『裏庭』を読んで、梨木ワールドのファンになったのだが、このワールドには、いくつかの共通項が存在する。重要なテーマは、―死―である。そして、このテーマに寄り添うかたちで、夢や現実(うつつ)、精霊、自然といったテーマが存在する。

今回の、『f植物園の巣穴』にも同様のテーマともう一つ(埋もれた記憶)が絡んでくる。小説の主人公は、f植物園の園丁であるが、自分の受け持ち区域の水生植物園を(隠り江)と称して、公開に向けて整地している。その中にある椋の木のホラに落ちてしまうことから、話しがすすんでいく。始めは暗い藪の中の小道を下へ下へおりていってるのだろうと思った。いつか水の底に沈んでいき、さらに下流を目指す。途中、かえるのような顔をもった生き物と友だちになり、だんだんその子との会話が進歩してくる。遠い記憶の中の実家や景色が登場し、下へすすむという行動が、記憶をたぐっていくという行為であることに気付かされる。

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この小説の中には、いくつかのキーワードがある。ナマズ・キツネ・犬・カエル・鯉・鶏などの動物、秋海棠・水仙・椋木・白木蓮・ムジナモなどの植物、アイルランドの精霊たち、オオゲツヒメや稲荷・イザナミノミコトなどである。だれかを訪ねて、旅をしているようでもあるし、現在を求めて出口をさがしているようでもある。息苦しさに出口を求めているのは、読み手である自分だと気付く。
論理性とは無縁の展開、あるのは過去の事実を顕在化させていく放浪の旅だけ。たぶんこういう筋立ての話はあまり好きではない人もおられるだろう。でも、何か惹かれるものがあるのだ。―死―を超越するものは存在するのか。イザナミの神話でも、オルフェの場合もその探求だったように。おそらく、死を乗り越える世界が必要だったのだろう。
オオゲツヒメは死体から、たくさんの穀類や豆類、植物の種が生まれる。死と再生の物語なのかもしれない。

最後は、もちろん椋の木の巣穴から出てくるわけだが、感動的な結末が待っていた。しっとりとした人間らしい共感にあふれた結末が。

梨木香歩さんの頭の中って一体どうなっているのだろう。こうも複雑な構造を作って、変にならないのが不思議だ。しかもとっておきの結末を用意しているなんて、心憎い。読者をあやしの世界に導いて、しかも不快感はなく、さいごに爽快感をもたらしてくれる。

fとは、まったく何か語られないが、小石川植物園が背景にあるようだ。おりしもその夜の『美の壺』では、ヴァイオリンの美についてやっていた。その胴にうがたれたfの孔、女性の綴りのfだとも言っていたが。世の中は、因縁に満ちていると感じた。



丹生都比売

丹生都比売

  • 作者: 梨木 香歩
  • 出版社/メーカー: 原生林
  • 発売日: 1995/11
  • メディア: 単行本




沼地のある森を抜けて (新潮文庫)

沼地のある森を抜けて (新潮文庫)

  • 作者: 梨木 香歩
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/11/27
  • メディア: 文庫



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支えられた本 [本]

人生の岐路で出会った本

 今年の一月末に新聞の定期購読をやめました。一人暮らし同様になって、たまる新聞紙の廃棄処分や何より読まない日が続くと、お金の無駄を感じて、それまで欠かさずに取っていた朝日新聞の購読を一時ストップすることにしたのです。
 ところが、何ということでしょうか。駅の売店で購入したやはり朝日新聞の朝刊に私の好きな作家、乙川優三郎さんの小説が、掲載されていたのです。『麗しき果実』と題した時代小説です。しょうじき「しまった。購読を止めなければよかった。」と思いましたよ。たぶん、二月の半ばくらいに始まったのだと思います。

 三月のある日、朝日新聞の方が自宅近くに営業にこられたのを見て、「今からでも新聞を入れてもらえますか?」と聞いてみました。もちろん、「いいですとも。三月の残り分はサービスで入れさせてもらいます。」と、その他のサービスも付けて、応じてくれました。

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 その小説とは、乙川優三郎の得意とする封建時代の女性が、様々な制約の中で自立していく話し。今回は、理野という蒔絵師の家に生まれた女性が、零落した実家をはなれて江戸の有名な蒔絵師に雇われ、意にそまない数物といわれる櫛や印籠の製作をする中で、有名な作者の意匠を忠実に再現し、作者の代わりに世に出すことの矛盾や、自分の表現に目覚めていく過程を描いているのです。同じ気持ちを抱く祐吉や、かすかに恋心をもつ画家の鈴木其一との細やかな心の交流などが交差しています。おまけに、中一弥さんの挿絵が雰囲気を盛り上げます。新聞小説の醍醐味は、いうなればこの挿絵があることで、想像の手助けをしてくれることですね。中一弥さんの絵は素晴らしく、時代小説にこれ以上の挿絵画家はいないと思えるくらいで、記事の内容とあいまって残しておきたいという衝動にかられるのです。したがって、小説の切抜きを始めましたよ。さらにいうなら、おかげで新聞を捨てるのが以前にまして大変になりました。一日一日の新聞小説をカッターで切り取ってから、廃棄に回さなければならないので。

 乙川さんの小説が、なぜ好きになったのか。少し長くなりますが、お付き合いください。

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